掌編 @SSSS_shortstory
極短編を書いていきます。 ※文頭に1.、2.などを記載しますがタイトル代わりに数字を振っているだけで、1話、2話というわけではないです。 ※すべてフィクションです。実在の人名などプライバシーに関わるものは一切使用いたしません。 Joined April 2022-
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21. すこし暑くなると動物園のことを思い出す。 すっかり老け込んだ両親と、白髪のまじるようになった弟と。 園内を歩く四人の足音以外は何も聞こえない。
20. 生後半年ほどの子供が手を叩いて店員を呼ぶ。「この店で一番強い酒を持ってこい」「失礼ですが」店員は肩をすくめてこちらへ顔を向けた。「お子さんの言葉使いを注意された方がいいのでは?」すべるようにして別の客のもとへ向かうウェイター。こどもは目に涙をためて吐き捨てる。「くそったれめ」
19. やむにやまれず地方へ移住したのが15年前。 居候させてもらっていた家を購入したのが10年前。 購入の条件が一つ。二階奥の部屋は絶対に開けないこと。
18. いつの日かあなたが落としたスマホを拾ってあげようと のぼったりおりたり おりたりのぼったり 永遠に続いていくこの階段を踏み外さぬよう今日も歯を食いしばる。 ここをのぼりきったら、白い光が砕け散る海が見えるはず。 波頭の切っ先はこの胸にせまって。
17. あなたはどうしてそこにいるの? 唾でも吐くようにあなたは言う。 どうしてだって? そんなこと、分かってるやつなんて一人もいやしねえよ。
16. 世界中の犬たちがぴょこんと片足を上げたのがサイン。 反逆ののろしを上げろ。 行きつけの裁判所へ行こう。不機嫌なヨガマスターにミートパイを売ってさしあげろ。 二束三文で叩き売れ。
15. 大人になった私は南の河を渡って留学した。今のパートナーと出会い、子を迎えた。いつか私は故郷にかえるだろうか。北の河を越えることはこの先あるだろうか。私たちの先祖が生まれたというあの街へ行くことは。
14. 4年後にここでまた集まれるかな? 誰かが言った。 長いようで短い歳月だ。きっとあっという間だろう。 公園にはうすく月明かりが差していて、みんなの顔を青く縁取っていた。コーラの缶を開ける音が派手に鳴る。 私は知ってる。 4年後、少なくとも一人はここへ来られないことを。
13. 理不尽で時代錯誤なことで無意味に叱られてしまった夜。 菜の花を買ってオシタシにして食べよう。 でも、どこのスーパーマーケットにも、もう菜の花は売ってない。 こんなに爽やかな夜風が吹く晩なのに。
12. 子どものころから、この陸橋に住んでいる。降りたことはない。来月いっぽうの階段が取り壊される。再来月にはもう片方が大河に接続される。そのあとはもちろん、この真ん中の部分が空中に浮き続けるだろう。問題はどうやって出前を受け取るかだ。
11. うちに帰ると『感謝』と『謝罪』と『罪悪感』がお腹をすかせて待っているだろう。我々は4人でルームシェアをしているのだ。私だけがほんとうの名前を伝えていない。
10. 不妊治療へ向かう電車はずっと停まっている。窓外に見える学校では入学式を行っている。 においたつほど濃く繁った桜の花にまんべんなく青い陽光が降り注ぎ、細かな枝の影がもつれあっている。 電車はまだ動かない。
9. 初めて飛行機に乗ったとき「ここから水風船を落としたらどうなるだろう」と笑った。隣に座った父も母も微笑んでいた。私はいま旅客機を改造した飛行機から一対の落下傘と爆弾を抱えて、祖国の大地に向かって飛び降りようとしている。
8. わたしがまだ川辺に向かって重々しく枝をしだれさせる桜の花びらのひとつだったころ、校舎の隣でまっすぐに立っている桜の幹でありたいと希っていた。 また強く風が吹いてきた。
7. 私を乗せた気球が、家の屋根を越えて上昇したとき「ここから落ちたらどうなるだろう」と不安になったけれど、それから何年もこの気球はのぼり続けている。心配することなど何もなかったのだ。
6. 「どうしてそんな長ったらしい名前なんだ?」と訊くと彼は笑って「どうしてそんなに塩辛いの? と海に向かって尋ねるかい?」と答えた。ポケットから拳銃を取り出してぶっ放す。 すると、冷蔵庫を開けて中から新たな中大兄皇子が出てきた。くそっ。何人いやがるんだ。舌打ちをして弾を装填する。
5. 部屋で大きな声を出して笑っていると壁が激しくノックされた。うるせえぞ! いま何時だと思ってんだ! 今が何時なのかなんて知らないし声の主の名前も知らないし顔も知らないしそもそもここ数年にわたって隣には誰も住んでいやしない。
4. あのひとのことが好きだった。落ち着く声。柔軟剤のいい香り。場にふさわしい言葉を適切な声量とタイミングで物怖じせずに言える人だった。でもどこかいつも寂しそうだった。 遠い遠い場所に引っ越していってしまったあの人の, マスクの下を見ることはいちどもなかった。
3. 街を歩いていると「佐藤さんですよね」と声をかけられた。首を横にふる。「人違いでした、すみません。鈴木さんですよね」と相手が言い直す。「違います私は佐藤です」と答えた。 相手はたいへん恐縮して、人違いの非礼を詫びて去っていった。
2. 昨日、ささやかな嘘をついたのだ。「Twitterの世界に閉じ込められた」「現実世界に戻れない」「一次元の世界ってこんななんだ!」「どうやらここで物語をたくさん書けば脱出できるようだ」ひとつのイイネもつかない。馬鹿げてる。もう寝よう。……そして目が覚めたらすべてが消滅していた。